インセプションが仕掛けた知的興奮
2010年公開の「インセプション」(監督:クリストファー・ノーラン)は、他人の夢に侵入してアイデアを植え付けるという難解な設定を、圧倒的な映像美とアクションで娯楽作品として成立させました。パリの街が折り曲がるビジュアルは、CGが物語のテーマそのものを表現する道具になり得ることを証明しています。
本作の成功は、ハンス・ジマーが手掛けた重低音の劇伴とも相まって、「頭を使う大作映画」というジャンルへの信頼を取り戻すきっかけになりました。続く「インターステラー」(2014)へとつながるノーラン印のSF路線がここから本格的に始まります。
アベンジャーズが証明したユニバース戦略
2012年の「アベンジャーズ」(監督:ジョス・ウェドン)は、単独作品として積み重ねてきたアイアンマンやキャプテン・アメリカといったキャラクターを、一つの映画に集結させるという前例のない企画でした。複数のシリーズを緻密に繋げて一つの巨大な物語を作る「シネマティック・ユニバース」という手法が、興行的にも成立することを証明した記念碑的な一本です。
以後マーベル・スタジオはこの戦略を10年かけて拡張し続け、2018年の「アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー」、2019年の「アベンジャーズ/エンドゲーム」で一つの壮大な物語を完結させます。10年越しの伏線回収という前代未聞のスケールの物語が、2010年代のヒーロー映画黄金時代を象徴しました。
マッドマックスが刷新したアクション演出
2015年の「マッドマックス:怒りのデス・ロード」(監督:ジョージ・ミラー)は、荒廃した未来世界を舞台に、ほぼ一台の巨大トラックを軸に展開する長大なカーチェイスを描いた作品です。CGに頼りきらず、実際に車両を改造し砂漠で撮影する泥臭い手法が、逆にリアリティと迫力を生み出しました。
シャーリーズ・セロン演じるフュリオサの存在感も相まって本作は批評的に高く評価され、アクション映画は爆発の数を競うのではなく編集のリズムと画作りで魅せるものだ、という再認識を業界にもたらしました。
ラ・ラ・ランドが灯したミュージカル復権
2016年の「ラ・ラ・ランド」(監督:デミアン・チャゼル)は、夢を追う男女の恋を古典的なミュージカル映画の文法で描き、CGヒーロー映画一色になりつつあった2010年代の映画界に新しい風を吹き込みました。作曲家ジャスティン・ハーウィッツが手掛けた楽曲は多くの観客の記憶に残っています。
チャゼル監督は2014年の「セッション」でも音楽をテーマにした緊張感あふれる人間ドラマを描いており、この2作は2010年代の音楽映画ブームを牽引した重要な作品として並び称されます。
配信サービスが変えた映画との距離
2010年代後半にはNetflixをはじめとするストリーミングサービスが台頭し、劇場公開を前提としない映画製作が急増しました。自宅のテレビやスマートフォンで新作映画を楽しむという習慣が広まったことで、映画館に足を運ぶ動機そのものが問い直されるようになります。
この流れは大作シリーズにも影響を及ぼしました。「アベンジャーズ/エンドゲーム」が記録的な動員を集めた背景には、配信では味わえない「劇場体験」の価値を観客が改めて意識したことも一因とされています。2010年代は劇場と配信が共存を模索し始めた過渡期でもありました。





